ONOM~心地よさを探求した暮らしの道具~
【ONOMとは】
モノの概念をひっくり返した先にあるもの。
ARASはひっくり返すと「SARA(皿)」になり、同じくONOMをひっくり返すと「MONO(モノ)」となります。
モノの概念をひっくり返した時に、「わたしたちが目指す心地良さとは何だろう?」と想像してみる。
そこにはモノを使う人がいて、その人の感覚や感情について気を巡らせている自分の姿に気づきます。
モノを考えることは、同時に、人を考えること。
「モノ」を通して、「人」が味わう心地よさとは何だろう?
そんな問いを掲げて、心地良さを探求する旅に出ました。
「心地よくあり続ける。」
心地よい暮らしの道具を考え、カタチにする。
ONOMは、そのような想いからはじまったプロジェクトです。
今回、“ONOMの考える心地よさ”をテーマに、開発者の石川勤さん、プロダクトデザイナーの上町達也さん、同じくプロダクトデザイナーの柳井友一さんにインタビューを行いました。
石川勤/開発者(石川樹脂工業)
上町達也/プロダクトデザイナー(secca)
柳井友一/プロダクトデザイナー(secca)
嶋津/インタビュアー
ONOMのはじまり
──暮らしの中のすべてのモノを対象にした新しい提案
上町:
ARASでは、テーブルウェアを通して“樹脂の力”による新しい体験価値を提案してきました。「テーブルウェア以外の領域でも新しい提案ができて、多くの人に喜んでいただけるのではないだろうか?」。ONOMは、そのようなアイデアからスタートしたプロジェクトです。
ARASを通して、僕たちの提案を受け取ってくださるファンの方々がたくさんいることを実感し、さらには「豊かな食体験」を基軸として器をつくり続けてきたことで、チーム内でも樹脂の可能性をより大きく、より深く、感じはじめていたこともあります。
ある意味、実験的な試みではあるのですが、自信があったからこそ一歩踏み出せた気がしています。
石川:
ONOMのはじまりは、モノありきでした。
「モノをつくる素材も技術もデザインもあるのだから」と、“テーブルウェア”の枠を取っ払い、新しいプロダクトを手掛けようと試みました。当初は「Amazonで売れるものをつくろう」と、ビジネスサイドの観点から進めていきました。市場の分析から価格設定が決まり、市場における優位性を満たした条件によってモノをつくる。世の中のニーズ──言い換えれば「売れるものベース」で商品開発をしていたのですが、このまま続けていると自分たちの首を絞めることになるのではないかと疑問を抱きました。
“安さ”を最優先に考えると、これまでわたしたちが大切にしてきた考えや想いを取りこぼしてしまう。人に寄り添ったモノづくりの在り方のことです。そこで、“わたしたちがモノをつくる意義”という問いを立て、わたしたちらしさのあるコンセプトを打ち立てました。
【Concept】
心地よいものを。
人が使うモノだから、心地よくありたい。
ずっと使えるモノだから、心地よくありたい。
ちょっとしたモノでも、心地よくありたい。
「心地よいものを。」という問いに向き合い、
使う人にとっても、作る人にとっても、環境にとっても、
心地よくあり続ける暮らしの道具をお届けします。
“コンセプト”という道筋が見えるからこそ、たとえ迷ったとしても、元の場所へ立ち返ることができます。
上町:
結局このチームでやる以上は、意義から考える方が腑に落ちることにあらためて気付かされました。下から一つずつ積み上げていかないと納得してつくることができない。良くも悪くも、僕たちは面倒くさいチームなわけです(笑)。そして、それを全員が好んでやっています。
柳井:
どのプロダクトにおいても、みんなが主体的に同じ方向を向くことのできる考えを探求しました。みんながそれぞれ納得しているモノは、どこへ場所を移しても揺るがない軸になります。結果的に、それが多くの人に届くモノになる。そのような連鎖が起こるのではないかと思っています。
ONOMが目指す“3つの心地”
ONOMが探求する“心地よさ”は、大きく分けて「使い心地、買い心地、作り心地」の3つの要素で構成されています。そして、それぞれの細部に宿る“心地よさ”はアンサンブルを奏でるように融合して、一つの感覚を喚起します。それが“愛でる”という感情です。
上町:
「何のために、モノをつくるのか」
この問いと真摯に向き合った時、僕たちの回答はシンプルで「使う人の心を満たすため」。つくる以上は、モノを愛してほしい。ある程度のお金を払えば、ある程度の品質が担保された商品が手に入る世の中です。ただ、僕たちの感覚としては「これでいい」じゃなくて「これがいい」で選んでもらいたい。
心から納得して買っていただいたモノは、愛でる対象となります。愛でられることで、結果的にモノを永く使っていただけることにも繋がります。「愛でられ続けるには」という発想に落とし込みながら、商品開発に取り組みました。
ブックスタンド
石川:
「モノを愛でる」という価値観において、ミニマリストや整理整頓術の概念のように本を“片づける”対象ではなく、本そのものを“愛でる”対象にしている人を大事にしたい想いがありました。このブックスタンドには、本を単なる“情報”と捉えるのではなく、本そのものを好きになること、“片づける”という行為を越えてモノ自体を好きな人を少しでも増やしたいという想いが込められています。
上町:
「本」というプロダクトに心が支えられている人はたくさんいます。尊敬する人の言葉、お気に入りの詩や小説、僕たちデザイナーであれば美しくまとめられたデザインブックかもしれません。物質として、言葉、デザイン、写真などの情報が作品のように束ねられているモノを愛でる。暮らしの中で「本」というモノに特別な想いを持っている人が、心を込めて愛でられる在り方を提案しました。
柳井:
“ブックスタンド”と言いつつも、前提として本だけを対象にしたスタンドではありません。本以外でも、自分のお気に入りのアイテム──チラシ、手紙、スマホ、iPadを立てかける人もいるでしょう。あらゆる「立てかける」という行為に対する接点になると、暮らしの楽しみ方も豊かになるような気がします。
また、一口に「立てかける」と言っても「表紙を見せたい、背表紙を楽しみたい」など、人によってそれぞれの趣向がありますよね。本における“スタンド”は、僕たち人間で言えば“椅子”です。さまざまな空間における置き方や見え方を詰めていき、角度に関しても何度も検証を重ね、愛でる対象をしっかりと受け止める機能性を設計しました。
立てかけなくとも、佇まいで魅せる
柳井:
モノ自体を知らない人が「何だろう?」と興味を抱いてもらえる、そんなトリガー的な役割を持たせた佇まいです。従来型の本立ては重量があるものも多く、また、本が置かれていない状態では視覚的に惹かれるモノが少ない印象でした。ONOMでは、軽やかな使い心地や、使われていない時でもオブジェとして魅せることができる置き心地を意識しました。
──場に調和するだけでなく、場自体を高めてくれるような、
あるいは、「そこにいてほしい」と思える装置として
上町:
基本的に道具は肌に触れているよりも、置かれている時間の方が長いですよね。たとえば、ゴミ箱は特に収納されるものでもなく部屋の隅に置かれているので、部屋でくつろいでいると自然と目に入ってきます。できることならば、その人が大事にしている住まいにおける空間の足を引っ張りたくはない。お客さんが来た際、モノを隠す対象に捉えるのではなく、「そこに置いておきたい」と思えるような、むしろ「そこにいてほしい」と思えるようなモノであってほしい。
靴べら
上町:革靴などを履く習慣のある人の中には、日常的に靴べらを活用されている方もいるかと思います。よく目にするのは、靴べらを玄関の下駄箱に立てかけたり、引っ掛けたりしている光景。置き方については妥協している人も少なくないのではないでしょうか。日々、目にしたり使ったりするのであれば、そもそも置いてある様子から愛でられるカタチがいい。オブジェのような佇まいであれば、玄関に置いていたい。
ヤジロベーのようにゆらゆらと揺れる形状はオブジェのような佇まいだが、本体のカーブが手にフィットし、靴を履く時に手と踵が程よい距離を保てるような構造となっている。
置き心地と使い心地を兼ね備えた造形となっています。とはいえ、収納したい人もいるでしょうから、下駄箱の中に縦方向に収まるように靴のサイズに合わせて設計しました。
ONOMが目指す「買い心地」
──買った人が語りたくなるようなモノを
石川:
大事にしたい価値観は、手にした人が「これを愛でたい」と思えるモノであること。コストから算出した価格ではなく、大事にしてもらえる感覚を意識しています。
商品との出会いも大切です。ECサイトで買いたい人、Amazonなどのプラットフォームを利用したい人、店舗で買いたい人……さまざまなライフスタイルや価値観の方にも柔軟に対応する。多くの人が心地よく買える場所を模索しながら、決して限定的にならずに、開かれた届け方のできる準備を進めています。
上町:
お客さまに心地よく選んでいただけるためのノイズを、どれだけ丁寧に取り除き、ケアできるか。その中には、ONOMのコンセプト、ストーリー、買える場所、そこで交わされるコミュニケーション、すべてが含まれていると思っています。手に取った人が誰かに紹介したくなるようなモノは、それらの調和によって生まれます。
ARASでは、まさにそれが起こっていて、ブランドパートナーやアンバサダーのみなさんが第三者に向けて自分の声で伝えてくれています。ARASのプロダクトやコンセプトに納得して“自分ごと”として捉えくれているからこそ起こる現象です。それが理想的なブランドの在り方だと思いますし、今後ONOMでもそのような広がりが起こるとうれしいです。
ONOMが目指す「作り心地」
──作り手の歓びは、イノベーションとロングセラー
石川:
作り心地は、工場本位の単なる“作りやすさ”のことではありません。今までできなかったことができるようになったり、今まで見たことのない商品を作り出したりすることもまた、作り手にとっての大きな歓びです。言い換えれば、イノベーションを起こすこと。そのためには、適度な難易度の課題を設定し、それをチームで力を合わせて試行錯誤を繰り返しながら解決する必要があります。
クリアする度にハードルが高くなりますが、何よりも大事なことは継続的であること。目まぐるしく新商品が変わったり、規格が変わったりすることは望ましくありません。モノづくりは、一つ立ち上げるだけでも莫大なエネルギーを要します。ようやくローンチした商品が、激しく消耗されて短期間で世の中からなくなってしまうことほど作り手として悲しいことはありません。
上町さんが話した「愛でられることで、結果的にモノを永く使っていただけること」に繋がるのですが、それは使い手の歓びだけではなく、作り手にとっての歓びにも繋がっています。真摯にモノづくりに向き合っている人ならば誰でも、商品がロングセラーになることを切望しいているのではないでしょうか。
そのためにも、時代に応じて積み上げ式にプロダクトをアップデートしていく必要があります。工場、産地、デザイナーたちが二人三脚で一丸となって更新してゆく継続性。ONOMは、その取り組みが問われる商品展開になっていくだろうと考えています。
上町:
「買い心地」が買い手側の納得であることに対して、「作り心地」は作り手の納得をいかに満たしてゆくか。ここであらためて冒頭の話へと戻るのですが、そのためにも“自分たちがつくる意義”が重要になります。価格の安さやトレンドだけを追いかけて、ただ消耗されてゆくだけのモノづくりでは徐々に納得できなくなっていく。
東洋医学的な観点で言えば、作り手が心から納得できるものをつくれば、自ずと買い手にとっても“良い商品”として広がっていくのだと思います。一方で、作り手に淀みがあると、結果的に買い手にも違和感が残ってしまう。作り心地を突き詰めることが、結果的に買い心地にも繋がり、それは使い心地へも繋がってゆく。心地よいモノは、それを作る人たちのチームビルディングから既にはじまっています。
ONOMの考える心地よさ。
それは、モノの向こう側にいる人を想像し、暮らしの中の「愛でる」瞬間を豊かにするモノづくり。
使い手も、作り手も、環境にも、心地よくあり続ける暮らしの道具。
これからもONOMの商品や考え方をお伝えしていきます。